Making of 「牛の散歩」
「テーマ別組写真の作り方」シリーズ記事の第三段です。
(まず、
(Ⅰ)、
(Ⅱ)の各編からお読み下さい)
さて、このブログにおいては「組写真」をコンセプトと
していますが、じゃあどうやって組写真を作るのか?
同じような花の写真や子供の写真を並べただけで
「組写真」なんて、とうてい言えないのではないのか?
・・という考えの中、いままで誰も書かなかった組写真の
作り方について、探求をしていこうという主旨で記事を
書いています。
そして、今回の組写真のテーマは「青空」です。
え?「そんな単純なテーマでいいのか?」って・・
どうして、どうして、単に青空だけ撮って並べる訳も
無かろうし、まあ、具体的な「撮るときの考え」を
読んでみてください。

↑例によって、1枚目は「掴み」です。
今回も移動(つまり旅行、小旅行)をスタートにしました。
(Ⅰ)では移動の表現に電車というモチーフを用いましたが
今回は車です、実際は今回の斑鳩散策には車ではなく
電車を用いて移動しましたが、組写真のモチーフとしては、
それをわざわざ正直に提示する必要は無いです。
時間軸通りに、ベタ並べしたら、「子供の絵日記」になって
しまうという事もあります。 それは自分がただそうやって
観光地を歩いてきた、というだけで、記事や写真を見る人
の体験とはまったく関係無い事です。
写真はすなわち「絵」を描いているのと同じ事です、
自分が思い描く「絵」に相当する映像をカメラを用いて
制作するという考え方です。
絵が描けない人というのは、絵筆やクレヨンを使う技術が
無いという訳ではなく、たとえば白紙の画用紙やキャンバス
を前にして、何も創造できない、という事が問題なのだろうと
思います。
写真もまた同じ、観光名所の神社仏閣や綺麗な花や綺麗な景色
しか撮れないという人は、カメラを持った段階で「何をどう
写したら良いのだろう」という部分の創造性が発揮できて
いないという事になります。
しかし、じゃあ創造性が貧困なのが問題か?、というとそうでは
なく、創造性そのものは誰にでも備わっている能力だと思います、
問題なのは「写真は創造性を用いて撮るものだ」という事実を
知らないという事であり、写真とは綺麗な風景や観光地を綺麗に
撮るものだと思いこんでいるものだから、創造力を使う暇も
ゆとりも無くなってしまうという事なのでしょう。
さて、この1枚目、勿論偶然に撮ったというのではなく、この
位置に車が来る瞬間を待って撮っています。たとえばカーブでは
なく一直線の道路で走り去る車、というのもまた絵になりますが
現実問題として車道の真ん中でそれを撮るのは難しいでしょう、
カーブであれば撮影の角度的な自由度があるし、車も減速して
いるので、シャッター速度の選択肢を増やすことができます。
動体撮影では移動物体(被写体)の秒速を計算して、カメラの
シャッター速度から移動距離を算出します、具体的には時速
約36kmの車の場合、毎秒10m移動しますから、例えば1/100の
シャッター速度では被写体はその間に10cm動いてしまいます。
この移動距離が、撮影距離からの角速度に応じて、ブレる
のか、ブレないのか? あるいは反対にブラして撮るのか、
そのあたりを判断しながらカメラの設定を行います。
こういう事を常に考えて撮る必要があるのか?と聞かれたたら、
答えは Yes です。 別に暗算で出来ない計算では無いし、
厳密に計算しなくても、ケタが合っていれば十分です、
つまり、どんな場合でも、その動く被写体は、今のシャッター
速度で、ちょっと(数cm)しか動かないのか、そこそこ
(数十cm)動くのか、かなり(数m)動くのか、そこまでは
「必ず」知って、計算して、写真を撮る必要があります。
この計算をやらない、しようとしない、意味がわからない、
というビギナーカメラマンは、だから「動体撮影が出来ない」
という結果に繋がるわけです。
基本的に小学生レベルの算数ですから、是非これはちゃんと
計算して撮るのが良いと思います。
あと、車のナンバープレートは画像処理で消しておきましょう、
肖像権ではないですが、同様に基本的な撮影マナーとなります。

↑斑鳩という街の見所は決して法隆寺だけというわけではなく
(Ⅱ)で紹介したような田園風景も多数あります。
田園+石碑(道標)というのは、まあ、オーソドックスながら
被写体としては魅力的です。 単一の被写体に頼らず
A+Bという考え方で、モチーフを組み合わせて、その写真
表現の方向性を決めていく事が、組写真に限らず単写真に
おいても基本になります。
それから、技法的に言えば、広角レンズを用いた場合、
パースペクティブ、つまり遠近感の強調は、撮影者から
見て前後(距離)の方向に強く作用します。
具体的には、近くのものは普通に写るけど、遠くのものは、
どんどん小さくなって写るという事です。
ビギナーはそれを知らないから、広角レンズを使うのは
「広い風景を広く撮る」目的の場合のみです。
そうではなくて、平面的な広い風景なんて、広角で撮っても
望遠で一部を切り取っても、写真の与える印象には大差は
ありません、いや、下手すると、望遠か広角かすら、画像から
は区別できないでしょう。
広角が最も威力を発揮するのは、手前の被写体と奥の
被写体を対比するケースです、だから、広角レンズを持ったら
必ず「手前に何か」を入れて撮る事になります。
もし手前に怪獣の玩具を置き、背景にビルを入れて広角レンズ
を用いて撮れば怪獣の大きさとビルの大きさは同じ位に写す
ことができます、勿論トリック撮影でもなんでもなく、
単なる写真の基本原理にすぎません。

↑ここで、前述のように斑鳩のもう1つの特徴である
お寺の塔を青空をバックに入れてみます。
とは言え、法隆寺の五重塔では被写体が平凡すぎて面白みに
欠けるでしょう、このお寺は無名のマイナーなお寺ですが
多宝塔に白い部分があるのは好みです。まあ、ちょっと
マニアック的ですが・・(笑)
技法的に注意するのは、画面のどこに露出を合わせるか?
という事です・・で、実はこの被写体の場合はデジカメでは
基本的には綺麗に写すことはできません。
理由は、黒い(暗い)塔に露出をあわせれば、空の青さが
消えて白っぽくなり、かといって空に露出を合わせると
空は青いものの、塔が真っ黒になります。
この写真の場合は、画像処理(レタッチ)技術を用いて
撮影後に調整を行っています、撮る時には空のトーンを
飛ばさないよう青空に露出を合わせて撮ります。

↑1枚目より、移動(道)→田園→寺社と来ています、
組写真の流れとしては、「ゆるやかな連続性」という
スタイルを用いています。
この場合は、写真というよりも、モチーフというよりも、
もっと分割した画面中の構成要素の連続性がポイントに
なります、具体的には1枚目より道・草→草・石→木・瓦
→瓦・家 のように一部の繋がりを残しつつ展開していく
ことで、画面(写真)が切り替わった時の違和感を減少
させています。
これはブログのような垂直スクロール型閲覧環境よりも、
スライドショーや写真展で歩きながら見るような
「時間軸移動型」の閲覧環境に適した手法です。

↑イメチェンが入ります。
まあ、つまり「ゆるやかな連続性」ではなんともインパクト
や刺激に欠けるような、だらだらと続くイメージになりかねない
という問題があります。7枚という組写真の構成枚数を考えた
場合、最大2回はイメチェンをできる可能性があります。
これが3枚組だったら、恐らく1回もできません、
やったら、もう組写真としての繋がりが薄れてしまいます。
けど、5枚組だったら、1回やっても大丈夫でしょう。
10枚組以上で、何度もイメチェンが入る場合は、おそらく
3枚や5枚の組写真にバラした方が賢明でしょう。
このブログで開設当初から7枚組を選んで決定したのは、
そのあたりの実験要素の自由度が高いと踏んだからです。
自由度が高いとは、それはつまり難易度が低いとも言えます、
多分、毎回7枚組の記事を書くより、毎回3枚の組写真の方が
難しいと思います、3枚ではよほどテーマがしっかりして
いないとバラバラで組写真としては成り立たくなると思います。
さて、このイメチェンでは、極めて細い橋を車が渡って
いきます、しかし「珍しい」という視点でこれを撮ったら
珍しいものばかりを撮りたがる「観光写真」と同じになって
しまいます、写真は「絵を描く」行為と等価であって、
決して「記録」だけが目的ではありません。
この写真で言いたいことは不思議感です、これで車同士、
いや、車同士でなくても人と車がすれ違う場合なんか
どうするのだろう? ということです。
でも実際に言いたいことは別にあります・・
実際にこの橋を渡ってみると車が何台か来ました、
すると、あろうことか歩行者を優先させるような事は、
あまり考えていない様子で、われ先にと突っ込んでくる
ではないですか。
つまり地元民の抜け道好きの輩が好んで通る橋なん
ですね、こういう所を通れば早く目的に着くという
大きな勘違い、しかも車優先思考、「車に乗って
いれば偉いんだ、皆どけどけ、オレ様が通る」という
意識が丸わかりです。
いつも様々なマイナースポットで車も殆ど通らない道を
歩いていますから、こういうマナー知らずのドライバーが
出没しそうな場所は、もうだいたい予想がつきます、
案の定ここもそうでした。 歩行者の立場では不快ですし
それを通り越して身の危険を感じる事が多々あります。
そんなに急いでいったい何をどうしたいのでしょう?
渋滞がイヤなら歩くか自転車に乗って欲しいものです、
車に乗って偉そうに周囲を威圧するならば、車から降りて
身ひとつでもそれができるのでしょうか?
虎の威を借りる、というのは誉められたものでは無いです。
まあ、カメラを持っても同様に、
「邪魔だ、皆どけ、オレ様が写真を撮る」というマナー
知らずの素人があまりに多いのは閉口します。
(先日はプロカメラマンでも、そんなのがいました、
もちろん周囲の一般人に迷惑をかけるのは超三流です!)

↑こちらは珍しく観光写真です、
昨年くらいから綺麗に整備された「藤の木古墳」
まあ、昔の未整備の状態の方が古墳らしくて良かったの
ですけどね・・いちおう前の写真からは「不思議」つながり
と斑鳩のイメージを残しつつ、もちろん青空もずっと基本
テーマとしてキープしつつ組んでいっています。

↑オーソドックスな写真ばかり続いたので、ラストは、やや
個性的な写真で締めています。
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今回の「青空」も前回の「田園風景」と同様に、ぶっちゃけ
ありきたりのテーマになってしまっています。
シリーズの(Ⅱ)と(Ⅲ)は、組写真の作例というよりは、
むしろテーマとは何か? という部分に主眼が置かれており、
テーマを「モノ」として考えてしまうと、いくら工夫しても
いくら考えて撮っても、いくら技法や高性能な機材を使っても
おのずと限界がある、という部分が重要なポイントになります。
前回の(Ⅱ)のラストでも、この問題点を掘り下げてみるという
事を書きました、組写真の持つテーマとは、「モノ」ではなく
もっと人間の持つ感覚的な部分なのだろうと・・
1枚目の解説で述べたように、写真とは目で見たものを綺麗に
撮るのではなく、絵画のように、自分が創造した映像を
カメラという絵筆でフィルムまたは撮像素子というキャンバスに
描いていくものだ、と考えれば、答えはもう少し先に見えて
きそうにも思えますが・・
マニアック度=☆☆☆