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斑鳩(いかるが)散歩写真(Ⅰ)~夏の組写真編

今日は超ヘビー級記事です(笑)

さて、組写真をコンセプトとしているこのブログですが、
最近自分でも感じるのは、本来ならば現代の写真界に
おいては、まだセオリーが確立されていない「組写真」
というジャンルをできるだけ研究し、ブログというメディアを
通じノウハウを蓄積していこう、・・という主旨でやって
いるにもかかわらず、早いペースで記事をアップし続けて
いく必要がある状況においては、組写真の完成度
(テーマ性やストーリー性)のバラツキがどうしても大きく
なってしまう、という事です。まあ、ぶっちゃけ言うと、
良し悪しの差が激しいと思っています。

そんな事もあって、以前は「非組写真の掟」と称し、
組写真でやってはならない事を列挙したのですが、
じゃあ逆に「どんな事をすれば組写真になるのか?」
という部分が、まだまだきちんと説明(あるいは自分で
納得)できる段階では無いです。

で、先日、奈良県の斑鳩町に行き、写真を撮ってきました、
ちょっと自分でも自分が今、何をやっているかを冷静に
分析する意味もあって、今回からシリーズで、その撮った
写真から、組写真を創りあげるプロセスをご紹介する事に
します。

(つまり全編 「Making of 牛の散歩」です・・笑
 そしてある意味、写真界初の試みとなるでしょう、
 これがノウハウとして蓄積されて行くと良いのですが・・)

****
まず、斑鳩での撮影は約5時間、3台のカメラでの撮影枚数は
合計約280枚です、これは1時間に約55枚のペース。
私の場合平均1分に1枚、つまり1時間に60枚が通常なので
これはまず普通のペースです。

まず粗ヨリで、失敗写真(ピンボケ、露出がおかしい、構図が
単調すぎる)や、安全を期して複数枚撮った写真(連写したり
構図や深度を微妙に変えて撮るなど)のいらないものを削除
していきます、これで約60枚を捨てて220枚ほどに減りました
(初期廃棄率20%強、まあ、これは私の場合平均くらいです
 削除は、撮影の現場で行う場合も、帰宅後PC上で行う
 場合も、両方ありえます)

今回はJR法隆寺駅を起点としましたが、斑鳩の観光名所
(法隆寺、法起寺等)を完全に外して、マニアックなコースを
廻っていました(まあ、いつもの事ですが・・笑)

撮影した時に意識した感覚は、まず暑い・・、だから
「夏のイメージ」、それから「空が青い」という事でしょうか。
また条里制が残る土地であること・・つまり「田園風景」、
さらには現地で感じた事でマイナーなお寺がなかなか「不気味」
という雰囲気でしょうか・・ できるだけそれらのイメージに
沿う被写体を選ぶように心がけて撮影を行っていきます。

そして、撮影後の自宅で選別作業に入ります、パソコン上で
220枚の写真を時間順にソートし、順番に2周ほど見ていきます、
その中で「夏」「青空」「田園」「不気味なお寺」が組写真と
して成り立つかどうか? という点です。 あるいはそれ以外の
テーマが創れるか? という部分もポイントです。

4つのテーマに関連しそうな写真がどんどん見つかっていきます、
でも7枚組という「縛り」が、このブログにはあります。
10枚以上もあるテーマもあるし、5枚しか見つからないのも・・
それを平均化したり、なんとか追加で選んだりして、とりあえず
4つのテーマの組写真が創れそうです。
 
それ以外は残念ながら無理でした、3~4枚まではなんとかなっても
共通のテーマやストーリーで7枚となると難易度がぐっと上がります。

この時点で7x4=28枚の写真が選別されました、撮った写真は
全部で280枚ですので10%の写真が記事に使用される計算です。

通常は、1回の撮影で2記事平均しかできません。
平均採用率5%つまり平均廃棄(未使用)率は95%になりますので、
これでは無駄が多く効率的ではありません。

3日に2記事、年間240記事のペースでブログを維持するには、
廃棄率を減らすしか方法がなく、それはつまり、いかに
「撮りながらテーマを意識するか」につきると思います。

他のブログのように綺麗に撮れた写真を1枚だけアップすれば
いいと言うならば、私のペースではちょっと頑張れば僅か1日で
「1日1枚ブログ」の1年分の記事の写真が撮れてしまいます。
でもそんな「筋書きの無い写真」は絶対に撮りたくないし・・

そして廃棄率を落すには1回の撮影で複数の組写真テーマを
マルチタスク(複数の仕事を同時にこなす)でやっていくしか
無いわけです。

****
さて、では、組写真の作り方シリーズ、斑鳩編その1、
「夏をイメージする組写真」を1枚1枚選んでいきます。
斑鳩(いかるが)散歩写真(Ⅰ)~夏の組写真編_c0191967_19404775.jpg

↑導入部は組写真全体のイメージを決定するのに重要です、
ここで電車の写真を持ってくるのは「移動」あるいは「旅行」
の意味付けとなり、比較的オーソドックスです。 勿論移動
しないテーマでの組写真であれば電車のモチーフは使えない
です。(モチーフとは主題や動機という意味のフランス語で、
音楽における旋律の一部とかの解釈に使われます、つまりある
表現を構成するための部品の事。ただし部品は部品であって、
花などの単一の被写体では、普通はモチーフとは言いません)

で、夏という意味では、旅行(小旅行)は夏休みのイメージ
にも直結します、これはまあ、俳句で言う「季語」にも意味が
繋がると思います。(つまり旅行も電車もモチーフです)

なお、電車自身を綺麗に撮るだけでは「写真」にはなりません、
単なる「記録映像」になってしまいます。 

背景に奈良の象徴である古墳、前景に夏草を入れました。
ちなみに、このイメージが絶対に撮りたかったから、この場所で
電車が来るまで7分待ちました、電車が来るまで暇でしたので
何枚か試し撮りをして絞り値(被写界深度)を調整しています。
電車をあえてボカしたのは「記憶の中に残る情景」を意識して
のことです、そして「事前に撮りたい絵が100%決まっている事」
これがこの写真における最大のポイントです。
斑鳩(いかるが)散歩写真(Ⅰ)~夏の組写真編_c0191967_19422391.jpg

↑単写真ならば1枚目だけで終わり、ですが、組写真で難しい
のは「流れ」を意識する必要があるという事です。電車から
関連させて「鉄橋」を撮りました、1枚目を撮ってからこの
鉄橋まで電車関連の被写体を求めて歩いてきました。

ここでもう一度別のアングルや構図で「電車」を撮っては
いけません、「同一被写体の連続使用」は、最もやっては
いけない事です、理由は心理学的かつ論理的に説明できますが
長文になるのでまた別の機会にします、まあ説明するまでも
なく誰もが直感的に「ダメな組写真」とわかるでしょうが、
それでもその掟を破る人は残念ながら後を絶ちません。

写真的には「パンフォーカス消失点付き」か「ボケ利用」か
迷いました、どちらも「奥行き感」を演出する技法です。

何故奥行き感が欲しいか?、それは、「長距離の移動」を
シナリオに持ってきたいからです。何故長距離の移動か?
もう説明する必要も無いでしょうが「夏(休み)の旅行」を
バックグラウンドイメージ(表に出ない雰囲気、テーマ)と
しているからです。
斑鳩(いかるが)散歩写真(Ⅰ)~夏の組写真編_c0191967_19433767.jpg

↑1、2枚目で「ボケ利用」の技法を使ってしまったので
次はパンフォーカスしか無いです、同一の手法を重ねる事も
「同一被写体連続利用」と同様にやってはいけない事、
簡単に言えば「同じ雰囲気の写真ばかりでは飽きてしまう」
という事です。

組写真の流れとしては、これで「電車による長距離の移動後に
ついたその街は、古い町並みであった、天気も良くあまり人も
歩こうとしない暑い日であった」となります。

だんだん組写真の形ができてきました、起承転結のセオリー
から言うと、ぼちぼち4枚目(つまり真ん中の写真)は
「転」としてインパクトがあるものが欲しいところです。
斑鳩(いかるが)散歩写真(Ⅰ)~夏の組写真編_c0191967_19441662.jpg

↑「夏」をズバリ表現するストレートな被写体を選びました、
「セミの抜け殻」 しかし、一見しては抜け殻とわかりにくい
ように脱皮部を目立たせないアングルにしています。

使用技法は「広角マクロ」です、広角レンズを使った近接撮影
は被写体を大きく写すと同時に背景の構図を自由に選べる
メリットがあります、けど、メリットはすなわち「何をどう
撮りたいか」がわかっている人だけへの恩恵で、それが決まって
なければ単に「迷いが増える」だけになります。

この写真では、壁にへばりついているセミの抜け殻を
ここの住宅街の道路を意識したアングルで撮影しています、
明暗差が激しい状況なので道路や背景が白トビするのは承知の
上のアングルで、あえて白トビさせることで「夏の暑さ」を
セミと絡めて2重に表現しています。 

加えて右端の女性の存在、この方は実は同行者でして、
人物を入れないようにして撮ることも任意にできるのですが
あえてこのあたりに居ている瞬間を狙って撮りました。

何故ならばこのセミはリアリティが少ないからです、
マクロ撮影というのは対比させる大きさが無いと、滑稽な
までに非現実感が出てしまいます、写真展などで極端に大きく
引き伸ばした昆虫などのマクロ撮影は、人間の感覚的には
不自然この上ないものです、撮った本人は綺麗に撮れたから
大きく引き伸ばすという風に単純に思っているのでしょうが
「鑑賞サイズ」を常に意識しないと「映像表現」は成り立ち
ません。ここでは人物の大きさと対比させることでセミの
抜け殻のモチーフにリアリティを与えています。
斑鳩(いかるが)散歩写真(Ⅰ)~夏の組写真編_c0191967_19455366.jpg

↑一転、車が一台も通っていない道の写真です。
こういうのは組写真でいうところの「つなぎ」の写真です、
住宅街を少し意識させた4枚目から次の写真へ変わる際に
弱い関連をもたせながら、あるいは技法上のチェンジを繰り返し
スムーズな流れを持たせることが主要な目的です。
またインパクトのある「強い」写真(たとえば4枚目)を
載せた後は、続けて「強い」(つまり印象的な)写真を載せると
その効果が相殺(そうさい)されてしまいます。

人間は、強い感情を受けても、それが連続すると慣れてしまいます、
ある意味それは人間の長所です、悲しい事、辛い事でも慣れれば
平気という訳ですから。でも楽しい事、嬉しい事が連続してそれに
慣れてしまうのは、あまり良い結果は出ませんよね・・

写真においても「強い」写真が複数枚あるのなら、組写真にする
必要はあまり感じません、ましてや4番バッターばかりズラリと
並べた組写真(ラインナップ)もありえません、地味に送りバントが
できる選手の存在も、どうしても必要となるわけです。

この写真の場所ですが、将来バイパスになる道路の一部開通
区間です、地図を見てわかっていたので、あえて行ってみました。
ここで、すぐにイメージしたのは、沖縄や北海道の道で、殆ど車が
走っていないけど、どこまでも続く道、そして走っていないというのは
人口が少ないからというより「夏だから」「暑いから」「休みだから」
のイメージも連想できると思います。 
道の微妙なアップダウンも美しいです、単なるつなぎの写真とは言え
なんとなく「逃げ水」がここに見えて来るような錯覚も得られます。
斑鳩(いかるが)散歩写真(Ⅰ)~夏の組写真編_c0191967_1947145.jpg

↑住宅地つながりで次の写真への流れを意識します、
布団(や洗濯物)を干すのは、天気が良く暑い日のイメージを
連想させます、夏に咲く花(名前は知りません)があるのも、
テーマに則っています。 
洗濯物がズラリと干してあるのは、この場所の直前から気が付いて
いました、しかしそれをストレートに撮ったのでは工夫が無いです。

右手に洗濯物のアパートを見ながら歩き、左手に花が見えた・・
その時点で「花+洗濯物」の方程式の出来上がりです。

方程式の答えを出すアングルは1箇所しかありませんでした、
花の後ろに回りこみ、適切な絞り量を選定します、洗濯物をズバリ
撮ってしまうと、あまりに生活臭が出てしまうので、大口径レンズ
を用いて適切にボカします、逆光で明暗差が多きく厳しい条件ですが
撮影後にレタッチソフトによる「トーンカーブ補正」で細かい調整を
する事でなんとか明暗差の問題をクリアできます、それは撮る時から
そうしようとわかっている事です、写真の知識、カメラの知識に
加えて画像処理の知識が必須になる事が、現代のデジタル写真という
訳です。(従来の銀塩時代は撮影後はカメラ屋さんにまかせっきり
でしたが、デジタル写真ではカメラ屋さんの仕事も撮った人本人が
する必要がある、という事です)
斑鳩(いかるが)散歩写真(Ⅰ)~夏の組写真編_c0191967_1948940.jpg

↑組写真での、ラストの写真は、選び方が大変難しいです。
「シナリオ」、「流れ」、「ストーリー展開」を考えると、ラストに
「結論」として、印象深い(強い)写真を持ってくるのが一見正しい
ように思います。

音楽で言えば「ジャカジャカジャン!」と大げさに終るエンディング。
セオリーの1つとして、それもありだとは思いますが、しかしながら
それが必ずしも良い結果をもたらすとは限りません。

組写真で一番下手な終わり方は「夕陽で終る」と言われています、
まあ、容易に想像つく通り、あまりに平凡なエンディングだから
です、なんでも夕陽にしたら「今日の日はもうお終い」でカタが付く
わけは無いと思います、それでは「小学生の絵日記だ」と言われても、
しかたないですね、まあ、これも「掟」の一種です。

で、音楽で言えば「ジャン!」と終る他に「フェードアウト」という
手法もあります、だんだん消えていく、余韻を残すやり方です。
ただ、余韻は、たとえ「ジャン!」で終っても残るときは残るので
本来ならば、エンディングの手法よりも、むしろ、そこまでの組写真
のシナリオやテーマの流れがどうだったのか? につきると思います。

今回は、もうここで派手なエンディングをしたくなかったので、
あえて地味な終わり方、つまり「フェードアウト」を選択しました、
「夏の夜はまだまだ長いで、ハイな気分で盛り上がろうぜ、イェーイ!」
という終り方は今回はあまり選びたくなかったと言うか・・(笑)

****
(Ⅱ)~田園組写真編につづく。l
組写真の作り方シリーズ、全4回を予定しています。

マニアック度=☆☆☆  

by ushinosanpo | 2009-07-18 12:00 | 奈良県  

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