斑鳩(いかるが)散歩写真(Ⅰ)~夏の組写真編
2009年 07月 18日
今日は超ヘビー級記事です(笑)
さて、組写真をコンセプトとしているこのブログですが、
最近自分でも感じるのは、本来ならば現代の写真界に
おいては、まだセオリーが確立されていない「組写真」
というジャンルをできるだけ研究し、ブログというメディアを
通じノウハウを蓄積していこう、・・という主旨でやって
いるにもかかわらず、早いペースで記事をアップし続けて
いく必要がある状況においては、組写真の完成度
(テーマ性やストーリー性)のバラツキがどうしても大きく
なってしまう、という事です。まあ、ぶっちゃけ言うと、
良し悪しの差が激しいと思っています。
そんな事もあって、以前は「非組写真の掟」と称し、
組写真でやってはならない事を列挙したのですが、
じゃあ逆に「どんな事をすれば組写真になるのか?」
という部分が、まだまだきちんと説明(あるいは自分で
納得)できる段階では無いです。
で、先日、奈良県の斑鳩町に行き、写真を撮ってきました、
ちょっと自分でも自分が今、何をやっているかを冷静に
分析する意味もあって、今回からシリーズで、その撮った
写真から、組写真を創りあげるプロセスをご紹介する事に
します。
(つまり全編 「Making of 牛の散歩」です・・笑
そしてある意味、写真界初の試みとなるでしょう、
これがノウハウとして蓄積されて行くと良いのですが・・)
****
まず、斑鳩での撮影は約5時間、3台のカメラでの撮影枚数は
合計約280枚です、これは1時間に約55枚のペース。
私の場合平均1分に1枚、つまり1時間に60枚が通常なので
これはまず普通のペースです。
まず粗ヨリで、失敗写真(ピンボケ、露出がおかしい、構図が
単調すぎる)や、安全を期して複数枚撮った写真(連写したり
構図や深度を微妙に変えて撮るなど)のいらないものを削除
していきます、これで約60枚を捨てて220枚ほどに減りました
(初期廃棄率20%強、まあ、これは私の場合平均くらいです
削除は、撮影の現場で行う場合も、帰宅後PC上で行う
場合も、両方ありえます)
今回はJR法隆寺駅を起点としましたが、斑鳩の観光名所
(法隆寺、法起寺等)を完全に外して、マニアックなコースを
廻っていました(まあ、いつもの事ですが・・笑)
撮影した時に意識した感覚は、まず暑い・・、だから
「夏のイメージ」、それから「空が青い」という事でしょうか。
また条里制が残る土地であること・・つまり「田園風景」、
さらには現地で感じた事でマイナーなお寺がなかなか「不気味」
という雰囲気でしょうか・・ できるだけそれらのイメージに
沿う被写体を選ぶように心がけて撮影を行っていきます。
そして、撮影後の自宅で選別作業に入ります、パソコン上で
220枚の写真を時間順にソートし、順番に2周ほど見ていきます、
その中で「夏」「青空」「田園」「不気味なお寺」が組写真と
して成り立つかどうか? という点です。 あるいはそれ以外の
テーマが創れるか? という部分もポイントです。
4つのテーマに関連しそうな写真がどんどん見つかっていきます、
でも7枚組という「縛り」が、このブログにはあります。
10枚以上もあるテーマもあるし、5枚しか見つからないのも・・
それを平均化したり、なんとか追加で選んだりして、とりあえず
4つのテーマの組写真が創れそうです。
それ以外は残念ながら無理でした、3~4枚まではなんとかなっても
共通のテーマやストーリーで7枚となると難易度がぐっと上がります。
この時点で7x4=28枚の写真が選別されました、撮った写真は
全部で280枚ですので10%の写真が記事に使用される計算です。
通常は、1回の撮影で2記事平均しかできません。
平均採用率5%つまり平均廃棄(未使用)率は95%になりますので、
これでは無駄が多く効率的ではありません。
3日に2記事、年間240記事のペースでブログを維持するには、
廃棄率を減らすしか方法がなく、それはつまり、いかに
「撮りながらテーマを意識するか」につきると思います。
他のブログのように綺麗に撮れた写真を1枚だけアップすれば
いいと言うならば、私のペースではちょっと頑張れば僅か1日で
「1日1枚ブログ」の1年分の記事の写真が撮れてしまいます。
でもそんな「筋書きの無い写真」は絶対に撮りたくないし・・
そして廃棄率を落すには1回の撮影で複数の組写真テーマを
マルチタスク(複数の仕事を同時にこなす)でやっていくしか
無いわけです。
****
さて、では、組写真の作り方シリーズ、斑鳩編その1、
「夏をイメージする組写真」を1枚1枚選んでいきます。
↑導入部は組写真全体のイメージを決定するのに重要です、
ここで電車の写真を持ってくるのは「移動」あるいは「旅行」
の意味付けとなり、比較的オーソドックスです。 勿論移動
しないテーマでの組写真であれば電車のモチーフは使えない
です。(モチーフとは主題や動機という意味のフランス語で、
音楽における旋律の一部とかの解釈に使われます、つまりある
表現を構成するための部品の事。ただし部品は部品であって、
花などの単一の被写体では、普通はモチーフとは言いません)
で、夏という意味では、旅行(小旅行)は夏休みのイメージ
にも直結します、これはまあ、俳句で言う「季語」にも意味が
繋がると思います。(つまり旅行も電車もモチーフです)
なお、電車自身を綺麗に撮るだけでは「写真」にはなりません、
単なる「記録映像」になってしまいます。
背景に奈良の象徴である古墳、前景に夏草を入れました。
ちなみに、このイメージが絶対に撮りたかったから、この場所で
電車が来るまで7分待ちました、電車が来るまで暇でしたので
何枚か試し撮りをして絞り値(被写界深度)を調整しています。
電車をあえてボカしたのは「記憶の中に残る情景」を意識して
のことです、そして「事前に撮りたい絵が100%決まっている事」
これがこの写真における最大のポイントです。
↑単写真ならば1枚目だけで終わり、ですが、組写真で難しい
のは「流れ」を意識する必要があるという事です。電車から
関連させて「鉄橋」を撮りました、1枚目を撮ってからこの
鉄橋まで電車関連の被写体を求めて歩いてきました。
ここでもう一度別のアングルや構図で「電車」を撮っては
いけません、「同一被写体の連続使用」は、最もやっては
いけない事です、理由は心理学的かつ論理的に説明できますが
長文になるのでまた別の機会にします、まあ説明するまでも
なく誰もが直感的に「ダメな組写真」とわかるでしょうが、
それでもその掟を破る人は残念ながら後を絶ちません。
写真的には「パンフォーカス消失点付き」か「ボケ利用」か
迷いました、どちらも「奥行き感」を演出する技法です。
何故奥行き感が欲しいか?、それは、「長距離の移動」を
シナリオに持ってきたいからです。何故長距離の移動か?
もう説明する必要も無いでしょうが「夏(休み)の旅行」を
バックグラウンドイメージ(表に出ない雰囲気、テーマ)と
しているからです。
↑1、2枚目で「ボケ利用」の技法を使ってしまったので
次はパンフォーカスしか無いです、同一の手法を重ねる事も
「同一被写体連続利用」と同様にやってはいけない事、
簡単に言えば「同じ雰囲気の写真ばかりでは飽きてしまう」
という事です。
組写真の流れとしては、これで「電車による長距離の移動後に
ついたその街は、古い町並みであった、天気も良くあまり人も
歩こうとしない暑い日であった」となります。
だんだん組写真の形ができてきました、起承転結のセオリー
から言うと、ぼちぼち4枚目(つまり真ん中の写真)は
「転」としてインパクトがあるものが欲しいところです。
↑「夏」をズバリ表現するストレートな被写体を選びました、
「セミの抜け殻」 しかし、一見しては抜け殻とわかりにくい
ように脱皮部を目立たせないアングルにしています。
使用技法は「広角マクロ」です、広角レンズを使った近接撮影
は被写体を大きく写すと同時に背景の構図を自由に選べる
メリットがあります、けど、メリットはすなわち「何をどう
撮りたいか」がわかっている人だけへの恩恵で、それが決まって
なければ単に「迷いが増える」だけになります。
この写真では、壁にへばりついているセミの抜け殻を
ここの住宅街の道路を意識したアングルで撮影しています、
明暗差が激しい状況なので道路や背景が白トビするのは承知の
上のアングルで、あえて白トビさせることで「夏の暑さ」を
セミと絡めて2重に表現しています。
加えて右端の女性の存在、この方は実は同行者でして、
人物を入れないようにして撮ることも任意にできるのですが
あえてこのあたりに居ている瞬間を狙って撮りました。
何故ならばこのセミはリアリティが少ないからです、
マクロ撮影というのは対比させる大きさが無いと、滑稽な
までに非現実感が出てしまいます、写真展などで極端に大きく
引き伸ばした昆虫などのマクロ撮影は、人間の感覚的には
不自然この上ないものです、撮った本人は綺麗に撮れたから
大きく引き伸ばすという風に単純に思っているのでしょうが
「鑑賞サイズ」を常に意識しないと「映像表現」は成り立ち
ません。ここでは人物の大きさと対比させることでセミの
抜け殻のモチーフにリアリティを与えています。
↑一転、車が一台も通っていない道の写真です。
こういうのは組写真でいうところの「つなぎ」の写真です、
住宅街を少し意識させた4枚目から次の写真へ変わる際に
弱い関連をもたせながら、あるいは技法上のチェンジを繰り返し
スムーズな流れを持たせることが主要な目的です。
またインパクトのある「強い」写真(たとえば4枚目)を
載せた後は、続けて「強い」(つまり印象的な)写真を載せると
その効果が相殺(そうさい)されてしまいます。
人間は、強い感情を受けても、それが連続すると慣れてしまいます、
ある意味それは人間の長所です、悲しい事、辛い事でも慣れれば
平気という訳ですから。でも楽しい事、嬉しい事が連続してそれに
慣れてしまうのは、あまり良い結果は出ませんよね・・
写真においても「強い」写真が複数枚あるのなら、組写真にする
必要はあまり感じません、ましてや4番バッターばかりズラリと
並べた組写真(ラインナップ)もありえません、地味に送りバントが
できる選手の存在も、どうしても必要となるわけです。
この写真の場所ですが、将来バイパスになる道路の一部開通
区間です、地図を見てわかっていたので、あえて行ってみました。
ここで、すぐにイメージしたのは、沖縄や北海道の道で、殆ど車が
走っていないけど、どこまでも続く道、そして走っていないというのは
人口が少ないからというより「夏だから」「暑いから」「休みだから」
のイメージも連想できると思います。
道の微妙なアップダウンも美しいです、単なるつなぎの写真とは言え
なんとなく「逃げ水」がここに見えて来るような錯覚も得られます。
↑住宅地つながりで次の写真への流れを意識します、
布団(や洗濯物)を干すのは、天気が良く暑い日のイメージを
連想させます、夏に咲く花(名前は知りません)があるのも、
テーマに則っています。
洗濯物がズラリと干してあるのは、この場所の直前から気が付いて
いました、しかしそれをストレートに撮ったのでは工夫が無いです。
右手に洗濯物のアパートを見ながら歩き、左手に花が見えた・・
その時点で「花+洗濯物」の方程式の出来上がりです。
方程式の答えを出すアングルは1箇所しかありませんでした、
花の後ろに回りこみ、適切な絞り量を選定します、洗濯物をズバリ
撮ってしまうと、あまりに生活臭が出てしまうので、大口径レンズ
を用いて適切にボカします、逆光で明暗差が多きく厳しい条件ですが
撮影後にレタッチソフトによる「トーンカーブ補正」で細かい調整を
する事でなんとか明暗差の問題をクリアできます、それは撮る時から
そうしようとわかっている事です、写真の知識、カメラの知識に
加えて画像処理の知識が必須になる事が、現代のデジタル写真という
訳です。(従来の銀塩時代は撮影後はカメラ屋さんにまかせっきり
でしたが、デジタル写真ではカメラ屋さんの仕事も撮った人本人が
する必要がある、という事です)
↑組写真での、ラストの写真は、選び方が大変難しいです。
「シナリオ」、「流れ」、「ストーリー展開」を考えると、ラストに
「結論」として、印象深い(強い)写真を持ってくるのが一見正しい
ように思います。
音楽で言えば「ジャカジャカジャン!」と大げさに終るエンディング。
セオリーの1つとして、それもありだとは思いますが、しかしながら
それが必ずしも良い結果をもたらすとは限りません。
組写真で一番下手な終わり方は「夕陽で終る」と言われています、
まあ、容易に想像つく通り、あまりに平凡なエンディングだから
です、なんでも夕陽にしたら「今日の日はもうお終い」でカタが付く
わけは無いと思います、それでは「小学生の絵日記だ」と言われても、
しかたないですね、まあ、これも「掟」の一種です。
で、音楽で言えば「ジャン!」と終る他に「フェードアウト」という
手法もあります、だんだん消えていく、余韻を残すやり方です。
ただ、余韻は、たとえ「ジャン!」で終っても残るときは残るので
本来ならば、エンディングの手法よりも、むしろ、そこまでの組写真
のシナリオやテーマの流れがどうだったのか? につきると思います。
今回は、もうここで派手なエンディングをしたくなかったので、
あえて地味な終わり方、つまり「フェードアウト」を選択しました、
「夏の夜はまだまだ長いで、ハイな気分で盛り上がろうぜ、イェーイ!」
という終り方は今回はあまり選びたくなかったと言うか・・(笑)
****
(Ⅱ)~田園組写真編につづく。l
組写真の作り方シリーズ、全4回を予定しています。
マニアック度=☆☆☆
さて、組写真をコンセプトとしているこのブログですが、
最近自分でも感じるのは、本来ならば現代の写真界に
おいては、まだセオリーが確立されていない「組写真」
というジャンルをできるだけ研究し、ブログというメディアを
通じノウハウを蓄積していこう、・・という主旨でやって
いるにもかかわらず、早いペースで記事をアップし続けて
いく必要がある状況においては、組写真の完成度
(テーマ性やストーリー性)のバラツキがどうしても大きく
なってしまう、という事です。まあ、ぶっちゃけ言うと、
良し悪しの差が激しいと思っています。
そんな事もあって、以前は「非組写真の掟」と称し、
組写真でやってはならない事を列挙したのですが、
じゃあ逆に「どんな事をすれば組写真になるのか?」
という部分が、まだまだきちんと説明(あるいは自分で
納得)できる段階では無いです。
で、先日、奈良県の斑鳩町に行き、写真を撮ってきました、
ちょっと自分でも自分が今、何をやっているかを冷静に
分析する意味もあって、今回からシリーズで、その撮った
写真から、組写真を創りあげるプロセスをご紹介する事に
します。
(つまり全編 「Making of 牛の散歩」です・・笑
そしてある意味、写真界初の試みとなるでしょう、
これがノウハウとして蓄積されて行くと良いのですが・・)
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まず、斑鳩での撮影は約5時間、3台のカメラでの撮影枚数は
合計約280枚です、これは1時間に約55枚のペース。
私の場合平均1分に1枚、つまり1時間に60枚が通常なので
これはまず普通のペースです。
まず粗ヨリで、失敗写真(ピンボケ、露出がおかしい、構図が
単調すぎる)や、安全を期して複数枚撮った写真(連写したり
構図や深度を微妙に変えて撮るなど)のいらないものを削除
していきます、これで約60枚を捨てて220枚ほどに減りました
(初期廃棄率20%強、まあ、これは私の場合平均くらいです
削除は、撮影の現場で行う場合も、帰宅後PC上で行う
場合も、両方ありえます)
今回はJR法隆寺駅を起点としましたが、斑鳩の観光名所
(法隆寺、法起寺等)を完全に外して、マニアックなコースを
廻っていました(まあ、いつもの事ですが・・笑)
撮影した時に意識した感覚は、まず暑い・・、だから
「夏のイメージ」、それから「空が青い」という事でしょうか。
また条里制が残る土地であること・・つまり「田園風景」、
さらには現地で感じた事でマイナーなお寺がなかなか「不気味」
という雰囲気でしょうか・・ できるだけそれらのイメージに
沿う被写体を選ぶように心がけて撮影を行っていきます。
そして、撮影後の自宅で選別作業に入ります、パソコン上で
220枚の写真を時間順にソートし、順番に2周ほど見ていきます、
その中で「夏」「青空」「田園」「不気味なお寺」が組写真と
して成り立つかどうか? という点です。 あるいはそれ以外の
テーマが創れるか? という部分もポイントです。
4つのテーマに関連しそうな写真がどんどん見つかっていきます、
でも7枚組という「縛り」が、このブログにはあります。
10枚以上もあるテーマもあるし、5枚しか見つからないのも・・
それを平均化したり、なんとか追加で選んだりして、とりあえず
4つのテーマの組写真が創れそうです。
それ以外は残念ながら無理でした、3~4枚まではなんとかなっても
共通のテーマやストーリーで7枚となると難易度がぐっと上がります。
この時点で7x4=28枚の写真が選別されました、撮った写真は
全部で280枚ですので10%の写真が記事に使用される計算です。
通常は、1回の撮影で2記事平均しかできません。
平均採用率5%つまり平均廃棄(未使用)率は95%になりますので、
これでは無駄が多く効率的ではありません。
3日に2記事、年間240記事のペースでブログを維持するには、
廃棄率を減らすしか方法がなく、それはつまり、いかに
「撮りながらテーマを意識するか」につきると思います。
他のブログのように綺麗に撮れた写真を1枚だけアップすれば
いいと言うならば、私のペースではちょっと頑張れば僅か1日で
「1日1枚ブログ」の1年分の記事の写真が撮れてしまいます。
でもそんな「筋書きの無い写真」は絶対に撮りたくないし・・
そして廃棄率を落すには1回の撮影で複数の組写真テーマを
マルチタスク(複数の仕事を同時にこなす)でやっていくしか
無いわけです。
****
さて、では、組写真の作り方シリーズ、斑鳩編その1、
「夏をイメージする組写真」を1枚1枚選んでいきます。
↑導入部は組写真全体のイメージを決定するのに重要です、
ここで電車の写真を持ってくるのは「移動」あるいは「旅行」
の意味付けとなり、比較的オーソドックスです。 勿論移動
しないテーマでの組写真であれば電車のモチーフは使えない
です。(モチーフとは主題や動機という意味のフランス語で、
音楽における旋律の一部とかの解釈に使われます、つまりある
表現を構成するための部品の事。ただし部品は部品であって、
花などの単一の被写体では、普通はモチーフとは言いません)
で、夏という意味では、旅行(小旅行)は夏休みのイメージ
にも直結します、これはまあ、俳句で言う「季語」にも意味が
繋がると思います。(つまり旅行も電車もモチーフです)
なお、電車自身を綺麗に撮るだけでは「写真」にはなりません、
単なる「記録映像」になってしまいます。
背景に奈良の象徴である古墳、前景に夏草を入れました。
ちなみに、このイメージが絶対に撮りたかったから、この場所で
電車が来るまで7分待ちました、電車が来るまで暇でしたので
何枚か試し撮りをして絞り値(被写界深度)を調整しています。
電車をあえてボカしたのは「記憶の中に残る情景」を意識して
のことです、そして「事前に撮りたい絵が100%決まっている事」
これがこの写真における最大のポイントです。
↑単写真ならば1枚目だけで終わり、ですが、組写真で難しい
のは「流れ」を意識する必要があるという事です。電車から
関連させて「鉄橋」を撮りました、1枚目を撮ってからこの
鉄橋まで電車関連の被写体を求めて歩いてきました。
ここでもう一度別のアングルや構図で「電車」を撮っては
いけません、「同一被写体の連続使用」は、最もやっては
いけない事です、理由は心理学的かつ論理的に説明できますが
長文になるのでまた別の機会にします、まあ説明するまでも
なく誰もが直感的に「ダメな組写真」とわかるでしょうが、
それでもその掟を破る人は残念ながら後を絶ちません。
写真的には「パンフォーカス消失点付き」か「ボケ利用」か
迷いました、どちらも「奥行き感」を演出する技法です。
何故奥行き感が欲しいか?、それは、「長距離の移動」を
シナリオに持ってきたいからです。何故長距離の移動か?
もう説明する必要も無いでしょうが「夏(休み)の旅行」を
バックグラウンドイメージ(表に出ない雰囲気、テーマ)と
しているからです。
↑1、2枚目で「ボケ利用」の技法を使ってしまったので
次はパンフォーカスしか無いです、同一の手法を重ねる事も
「同一被写体連続利用」と同様にやってはいけない事、
簡単に言えば「同じ雰囲気の写真ばかりでは飽きてしまう」
という事です。
組写真の流れとしては、これで「電車による長距離の移動後に
ついたその街は、古い町並みであった、天気も良くあまり人も
歩こうとしない暑い日であった」となります。
だんだん組写真の形ができてきました、起承転結のセオリー
から言うと、ぼちぼち4枚目(つまり真ん中の写真)は
「転」としてインパクトがあるものが欲しいところです。
↑「夏」をズバリ表現するストレートな被写体を選びました、
「セミの抜け殻」 しかし、一見しては抜け殻とわかりにくい
ように脱皮部を目立たせないアングルにしています。
使用技法は「広角マクロ」です、広角レンズを使った近接撮影
は被写体を大きく写すと同時に背景の構図を自由に選べる
メリットがあります、けど、メリットはすなわち「何をどう
撮りたいか」がわかっている人だけへの恩恵で、それが決まって
なければ単に「迷いが増える」だけになります。
この写真では、壁にへばりついているセミの抜け殻を
ここの住宅街の道路を意識したアングルで撮影しています、
明暗差が激しい状況なので道路や背景が白トビするのは承知の
上のアングルで、あえて白トビさせることで「夏の暑さ」を
セミと絡めて2重に表現しています。
加えて右端の女性の存在、この方は実は同行者でして、
人物を入れないようにして撮ることも任意にできるのですが
あえてこのあたりに居ている瞬間を狙って撮りました。
何故ならばこのセミはリアリティが少ないからです、
マクロ撮影というのは対比させる大きさが無いと、滑稽な
までに非現実感が出てしまいます、写真展などで極端に大きく
引き伸ばした昆虫などのマクロ撮影は、人間の感覚的には
不自然この上ないものです、撮った本人は綺麗に撮れたから
大きく引き伸ばすという風に単純に思っているのでしょうが
「鑑賞サイズ」を常に意識しないと「映像表現」は成り立ち
ません。ここでは人物の大きさと対比させることでセミの
抜け殻のモチーフにリアリティを与えています。
↑一転、車が一台も通っていない道の写真です。
こういうのは組写真でいうところの「つなぎ」の写真です、
住宅街を少し意識させた4枚目から次の写真へ変わる際に
弱い関連をもたせながら、あるいは技法上のチェンジを繰り返し
スムーズな流れを持たせることが主要な目的です。
またインパクトのある「強い」写真(たとえば4枚目)を
載せた後は、続けて「強い」(つまり印象的な)写真を載せると
その効果が相殺(そうさい)されてしまいます。
人間は、強い感情を受けても、それが連続すると慣れてしまいます、
ある意味それは人間の長所です、悲しい事、辛い事でも慣れれば
平気という訳ですから。でも楽しい事、嬉しい事が連続してそれに
慣れてしまうのは、あまり良い結果は出ませんよね・・
写真においても「強い」写真が複数枚あるのなら、組写真にする
必要はあまり感じません、ましてや4番バッターばかりズラリと
並べた組写真(ラインナップ)もありえません、地味に送りバントが
できる選手の存在も、どうしても必要となるわけです。
この写真の場所ですが、将来バイパスになる道路の一部開通
区間です、地図を見てわかっていたので、あえて行ってみました。
ここで、すぐにイメージしたのは、沖縄や北海道の道で、殆ど車が
走っていないけど、どこまでも続く道、そして走っていないというのは
人口が少ないからというより「夏だから」「暑いから」「休みだから」
のイメージも連想できると思います。
道の微妙なアップダウンも美しいです、単なるつなぎの写真とは言え
なんとなく「逃げ水」がここに見えて来るような錯覚も得られます。
↑住宅地つながりで次の写真への流れを意識します、
布団(や洗濯物)を干すのは、天気が良く暑い日のイメージを
連想させます、夏に咲く花(名前は知りません)があるのも、
テーマに則っています。
洗濯物がズラリと干してあるのは、この場所の直前から気が付いて
いました、しかしそれをストレートに撮ったのでは工夫が無いです。
右手に洗濯物のアパートを見ながら歩き、左手に花が見えた・・
その時点で「花+洗濯物」の方程式の出来上がりです。
方程式の答えを出すアングルは1箇所しかありませんでした、
花の後ろに回りこみ、適切な絞り量を選定します、洗濯物をズバリ
撮ってしまうと、あまりに生活臭が出てしまうので、大口径レンズ
を用いて適切にボカします、逆光で明暗差が多きく厳しい条件ですが
撮影後にレタッチソフトによる「トーンカーブ補正」で細かい調整を
する事でなんとか明暗差の問題をクリアできます、それは撮る時から
そうしようとわかっている事です、写真の知識、カメラの知識に
加えて画像処理の知識が必須になる事が、現代のデジタル写真という
訳です。(従来の銀塩時代は撮影後はカメラ屋さんにまかせっきり
でしたが、デジタル写真ではカメラ屋さんの仕事も撮った人本人が
する必要がある、という事です)
↑組写真での、ラストの写真は、選び方が大変難しいです。
「シナリオ」、「流れ」、「ストーリー展開」を考えると、ラストに
「結論」として、印象深い(強い)写真を持ってくるのが一見正しい
ように思います。
音楽で言えば「ジャカジャカジャン!」と大げさに終るエンディング。
セオリーの1つとして、それもありだとは思いますが、しかしながら
それが必ずしも良い結果をもたらすとは限りません。
組写真で一番下手な終わり方は「夕陽で終る」と言われています、
まあ、容易に想像つく通り、あまりに平凡なエンディングだから
です、なんでも夕陽にしたら「今日の日はもうお終い」でカタが付く
わけは無いと思います、それでは「小学生の絵日記だ」と言われても、
しかたないですね、まあ、これも「掟」の一種です。
で、音楽で言えば「ジャン!」と終る他に「フェードアウト」という
手法もあります、だんだん消えていく、余韻を残すやり方です。
ただ、余韻は、たとえ「ジャン!」で終っても残るときは残るので
本来ならば、エンディングの手法よりも、むしろ、そこまでの組写真
のシナリオやテーマの流れがどうだったのか? につきると思います。
今回は、もうここで派手なエンディングをしたくなかったので、
あえて地味な終わり方、つまり「フェードアウト」を選択しました、
「夏の夜はまだまだ長いで、ハイな気分で盛り上がろうぜ、イェーイ!」
という終り方は今回はあまり選びたくなかったと言うか・・(笑)
****
(Ⅱ)~田園組写真編につづく。l
組写真の作り方シリーズ、全4回を予定しています。
マニアック度=☆☆☆
by ushinosanpo | 2009-07-18 12:00 | 奈良県